産業廃棄物の収集運搬業を営むには、ただ許可を取るだけでは不十分です。実際の業務では、排出事業者や処分業者と連携し、法令に基づいた処理を行う必要があります。
その中でも特に重要なのが、「マニフェスト制度」と呼ばれる管理方法。適正処理がなされていることを証明するこの制度は、環境保全と業務の信頼性に大きく関わってきます。
今回は、産業廃棄物収集運搬業の基本的な処理の流れと、マニフェスト制度についてわかりやすく解説します。
産業廃棄物収集運搬業とは?

収集運搬業の役割
産業廃棄物収集運搬業は、企業や工場などが排出する廃棄物を適切な処分場まで運ぶ役割を担います。
処分はしませんが、「誰が」「どこから」「何を」運んで「どこへ持って行くか」という工程を正確に管理する必要があり、適法かつ安全な運搬が求められます。
どんな許可が必要か(積替え保管の有無による違い)
収集運搬業の許可は、以下の2つに大きく分かれます。
- 積替え・保管をしない場合:比較的取得しやすく、収集してそのまま処分場へ運ぶ形。
- 積替え・保管あり:中間施設などで一時的に保管するため、追加の基準や設備が必要。
運搬のみであっても、自治体ごとに許可が必要なため、複数の都道府県をまたぐ場合はそれぞれで許可を取得します。
産業廃棄物処理の流れをざっくり理解しよう
排出事業者 → 収集運搬業者 → 処分業者
基本的な流れは以下の通りです。
- 排出事業者:廃棄物を排出する企業
- 収集運搬業者:廃棄物を引き取り、処分業者まで運搬
- 処分業者:適切な方法で中間処理または最終処分
この流れにおいて、各事業者はそれぞれ契約書の締結とマニフェストの交付・管理を義務付けられています。
収集・運搬の際に守るべきルール(運搬経路・飛散防止など)
収集運搬時には以下のような配慮が必要です。
- 飛散・流出・悪臭の防止
- 積載量・内容物の記録
- 決められた経路や処分場への直行
- 積載物の表示義務(「産業廃棄物運搬中」など)
これらを怠ると、行政指導や営業停止処分の対象となる可能性があります。
マニフェスト制度とは?

なぜマニフェストが必要なのか?(不法投棄防止)
マニフェストとは、排出事業者が処理の流れを把握・管理するための「産業廃棄物管理票」制度のこと。
廃棄物の処理状況を文書で「見える化」することで、不法投棄や不適正処理を防ぐのが目的です。
紙マニフェストと電子マニフェストの違い
マニフェストには2種類あります。
- 紙マニフェスト:7枚複写式の用紙を使い、手渡しや郵送で管理
- 電子マニフェスト:JWNET(日本産業廃棄物処理振興センター)を使ってオンラインで管理
電子マニフェストは手間が少なく、履歴の保存や報告もスムーズになるため、近年は導入が進んでいます。
交付・回収・保存義務とは?
マニフェストは排出事業者が交付し、運搬・処分業者が受け取り・返送・保存する必要があります。
- 交付義務:排出事業者
- 記載義務:運搬業者・処分業者
- 保存義務:全業者(5年間)
この流れを守らなければ、許可取消や罰金の対象になるため注意が必要です。
マニフェストの具体的な流れ(7票マニフェスト)
各票の役割と流れ(A票〜E票)
紙マニフェストでは、A〜E票まで7枚綴りになっています。
票の名称 | 内容(役割) | 最終的な保管者 |
---|---|---|
A票 | マニフェストの控え(交付証明) | 排出事業者 |
B1票 | 運搬終了時に運搬業者が保管 | 収集運搬業者 |
B2票 | 運搬終了後に排出事業者に返送される | 排出事業者 |
C1票 | 中間処理業者が処分終了後に処分業者が保管 | 中間処理業者 |
C2票 | 中間処理業者が処分終了後に処分業者から運搬業者に返送される | 収集運搬業者 |
D票 | 中間処理業者が処分終了後に処分業者から排出事業者に返送される | 排出事業者 |
E票 | 最終処分終了後に処分業者から排出事業者に返送される | 排出事業者 |
このように、誰がどこで何を扱ったかをすべて紙で追跡可能にします。
マニフェスト制度における違反とリスク
マニフェスト未交付・虚偽記載・保存漏れ
以下のような違反は、重大な法令違反とされます。
- マニフェストを交付していない
- 虚偽の内容を記載している
- 返送された票を保存していない
いずれも、廃棄物処理法違反となり得ます。
行政指導・罰則・許可取消の可能性も
違反の程度によっては、以下のような処分を受けるリスクがあります。
- 行政指導や改善命令
- 過料や罰金(最大100万円)
- 最悪の場合、業許可の取り消し
よって、マニフェスト管理は最優先業務といえます。
適正なマニフェスト管理のためのポイント

社内のルール化とチェック体制
適切なマニフェスト管理のためには、社内で以下のような体制づくりが必要です。
- マニフェスト記載担当の明確化
- チェックリスト・運搬台帳の整備
- 定期的な管理記録の確認
「なんとなく処理」は重大事故につながります。
電子マニフェストの活用も検討しよう
電子マニフェストなら、入力ミスの削減や進捗の可視化が可能です。JWNETに登録することで、自動的な報告やアラート通知も活用できます。
まとめ:収集運搬業者こそマニフェスト管理が要
産業廃棄物の収集運搬業は、社会的責任の重い事業です。単に「運ぶ」だけでなく、マニフェストを通じて適正処理を証明することが大きな信頼につながります。
許可取得後も、実務レベルでのルール遵守と記録管理を徹底し、違反リスクを最小限に抑える体制をつくっていきましょう。
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